研究発表 

傾斜テスト実践編(全国的にも珍しいテストでしたので実施するための情報収集は困難を極めました)

「傾斜テスト」とは「船員」と「旅客」?

 ヨットの傾斜テスト受けました。そして合格しました。

 と突然言われても、まずは何故このようなテストを受ける必要があるか分かりにくいですよね。そもそも通常のクルーザーヨットは「船舶検査証書」を見ていただければわかるのですが、一般的には「最大とう載人員」の欄に「旅客0人船員12名」のように表記され、旅客を乗せる前提の乗り物ではなく、「船員」として何人載せられるかという乗り物であることが殆どのようです。たまに噂で「ヨットは厳密にいうと子供を乗せたらいけない」という話を聞くことがあります。そのことを解説したウェブページがあるので、参考までにご紹介します(こちら)。この噂が本当ならこれまで市民体験乗船などで子供を乗せていたのが違法なの?と混乱が生じてしまいそうですが、結論から言うと、多くのヨットは5トン未満でありそのヨットの船舶検査証書にある「船員」は船員法の適用がなく子供を乗せることが直ちに法違反ではないと言うことで間違いなさそうです。ただし、旅客として乗せるためには傾斜テストを受けるか、復元力の計算を一定の方法で行いJCIの試験をクリアしないといけないのです。

 ちなみに船員法はどんな法律なのかと言うと船舶という長期にわたり陸地から離れて仕事をするという特殊な環境での「船員」は労働基準法が適用されずに、この特別な法律を守って働いてもらうというための法律と考えていただければ良いと思います。5トン未満のヨットの上で仕事をしてもらうことがあるとしたら、陸上と同じ労働基準法が適用されるということですね。船員法の適用がない「船員」ということですね。

 何れにしても我々NPOとしては旅客として人を乗せる事業を行うためにはJCIの厳しい「傾斜テスト」をクリアする必要があったのです。

傾斜テストの実際(やり方大公開!)

 以下、実際に我々が実施したテストの動画を公開するとともに解説を公開します。実施するにあたりヨットが壊れたら嫌だとか、本当に不安で心配で悩みました。ヨットの設計時の図面があれば、そこからの復元力計算ができればそれでもクリアできるということで頑張って探しましたが、わかったのはヨットの建造先が10数年まえに火災で図面が消失してしまったという事実にたどり着き、傾斜テストしか残されていないことになりました。

 とは言ってもどうやって実行したらいいか、先行事例も全くない状況でしたが、ヨット文化のために覚悟を決めて実行することにしました。この傾斜テストというものは通常は垂直にマストが立っているヨットを横に80度まで傾け、元に復元するかどうかを検査するという相当過激なテストです。強度の弱いヨットだと破損したりするリスクもあり、また大掛かりな試験なので、それなりの人員とコストがかかると思います。実施される場合は安全のためにやれることは全てやるなど最大限の注意を払って自己責任で行う必要があります。もちろん対応した保険などないと思います。考えられるとしたら事業者が従業員としてスタッフを採用して労災保険をかけて実施するなどリスクのことは最大限考える必要があります。

ユーチューブ動画はこちら

(解説)

事前準備

・検査の申し込み(海事代理士の佐藤さんに頼みました)

・傾斜角度の表示板の設置(ダンボールに錘をぶら下げて見やすいものを簡単に作成)

・砂袋の事前積み込み(70キロの人員分を船内に設置)これがとにかく重労働です。炎天下では生死に関わるのでお気を付けて。

・傾斜テストの場所の確認(三谷漁港のお休みの日に実施しました)

・人員と引っ張る車、備品(ロープや滑車など)の確保 最低4名は必要

以下当日

・岸壁とポンツーンでコーナーとなる場所に斜めにヨットを係留(前後共センターからロープが取れるように工夫)

・マストの補強 マストトップのハリヤードだけで引っ張るのではなく、そこから太めのロープを繋ぎ、マストトップまで巻き上げ、太めのロープを数回マストに巻きつけて、ハリヤードに直接引っ張る力がかかるのを防ぎます。摩擦の力とか滑車の働きが最大限に活かされます。何と言ってもマストがいかれたらヨットは終わりですからね。そこで傾ける反対側のサイドステーを増強するためにすべてのハリヤードを引っ張る側の反対側のサイドレールから取り、ウインチでテンションをかけてあげ、さらにマストのスプレッダーからラチェット式ラッシングベルトを2セットを同様に反対側に付けたので合計10本くらいのマストを守る対策をしました。ここまでやれば引っ張るロープが先に切れるはず。

・岸壁から車を使いロープを引っ張るときに結構頑丈な滑車を付けるのは必須です。予算を節約してホームセンターで帰る丈夫なOリングみたいな物だと摩擦とかテンションがかかると、すごい力が必要となり、ロープが切れます。

 くれぐれも安全に配慮し、ヨットが壊れるリスクも考慮して実行しなければいけないという難易度のとても高い検査だという認識が必要です。


まとめ

 このテストを受けるためには、テストを受ける何かしらの必要性があって、法律的な理解をしっかりした上で、十分な準備と検討を重ねることが前提となると思います。

 協力者を集めて実施しても事故が発生したり、破損してしまえば意味がなくなってしまいます。実行にあたっては時間をかけて万全な体制で(天候も含めて)行う必要があると思います。

© 2018 三河湾ヨット倶楽部。 このページはカラフルに彩られています。
Powered by Webnode
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう